可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 田中偉一郎個展『三丁目国際芸術祭』

展覧会『田中偉一郎連載個展3rd「三丁目国際芸術祭」』を鑑賞しての備忘録
TS4312にて、2019年6月7日~30日。



アンリ・マティスの縦2.6m×横3.9mの油彩画《ダンス(Ⅰ)》の前で、ブラシとパレットを持ったサングラスの男が、あたかも自作であるかのように、「どうだ!」といった姿勢で写真に収まっている(《MY WORKS #0001》)。どんなに「やってやった」という雰囲気を漂わせても、絵画がマティスの作品であることは明白で、パロディとして成立するだろう。もっとも、作品の知名度によっては、パロディが成り立たなくなることにもなるかもしれない。ジャクソン・ポロックの絵画《One: Number 31》の前では、同じサングラスの男が、中身を飛び散らせるかのように、黄色いバケツを作品に向けて投げ出す動作をしている(《MY WORKS #0003》)。ポロックの手法である「ドリップ・ペインティング」の手法を考えれば、床に寝て壁に足をけた形でポーズすれば、制作のイメージを生み出すことになっただろう。こちらはマスターピースに異議申し立てをする芸術損壊を示唆するようにも見える。河原温の制作した年月日を描いた絵画シリーズらしき《MAY 20, 1967》(《MY WORKS #0005》)は実在するのだろうか。この作品は作者のオリジナルかもしれない。「MAY 20, 1967」という文字列は、「三丁目国際芸術祭」の「会期初日(2019.6.7"かもしれない(=may)")」と解釈できるからだ。そして、仮にこの作品が作者が描いた作品ならば、唯一オリジナルの作品をもとにした写真作品となる。それにも拘らず、アイデアという観点からすれば剽窃にもなりうるという点が滑稽だ。どんなに独創性に胸を張ってみたところで、過去の芸術作品の積み重ねの上にしか作品は生み出し得ないということを作者は本展で伝えたいのかもしれない。だが、作者は「絶対に何も伝わらないし、伝わったフリをしないでほしい。」とのメッセージを本展に寄せていることを忘れてはならない。