展覧会『母袋俊也展「《TA・ENTSUUJI》―〈TA〉系円通寺 再試行 1999→2024―」』を鑑賞しての備忘録
ギャラリーなつかにて、2025年2月8日~22日。
京都・円通寺からの比叡山の眺めを、余白を挿入した縦長の画面を屏風のように偶数枚横に繋ぎ併せた〈TA〉系と名付けた形式で表わす《TA・ENTSUUJI》を中心とする、母袋俊也の個展。移転前のギャラリーなつかで四半世紀前に展示された、同じく円通寺からの比叡山の眺めをモティーフとした作品《TA・ENTJI》の資料も併せて紹介される。
《TA・ENTSUUJI》は、京都・円通寺の客殿にある座敷から比叡山を借景とした庭を描いた作品である。縁側、庭、生垣、緑を挟んで遠くに比叡山の青い影が望まれる。座敷の柱、縁側の柱、生垣の手前の檜、生垣の外の檜と奥の比叡山の頂へと視線を誘導するように立ち並ぶ。山頂から左右の稜線へと次第に面積(画面に対する割合)を拡げていく縦方向の余白が柱や杉と呼応して画面を区切る。区切られた画面には青葉繁る夏、紅葉に燃える秋、雪化粧の冬など異なった季節、異なった光の世界が表わされ、四季山水図的な性格も併せ持つ。座敷あるいは縁側を歩くことによる景観の変化を四季の移ろいへと時間的スケールと拡張している。それを可能にするのが、イメージを切断する余白であり、「すやり霞」の機能を果している。場面転換しつつ繋ぐのである。例えば拳銃を持つ手のイメージの次に倒れた人にイメージを並べたとき銃弾に折れた人をイメージするであろう因果のカテゴリーを利用しているのである。画面は敢て左の2枚と右の6枚との間で直角に折れる。だが画面の向きに拘わらず1枚の「平面」として受け取ってしまう。自動的に「補正」してしまう認識の在り方が明らかになる。このような認識の仕組みに働きかけるように、空白による断絶、異なる時間の共存、視線の動きを表わす(ような)線(及びその影を付することによる視線の実体化)などの仕掛けを施している。円通寺の借景庭園に、ル・コルビュジエ(Le Corbusier)の近代建築の5つの原則(とりわけ「ピロティ」や「水平連続窓」)や、建築的プロムナード(建築空間の映像化)を重ねているようにも思われる。正面性・平面性というお約束を逆手に取った、映像体験のマジック。それは作家が円通寺で体験した柱と檜とが後退していく驚異を鑑賞者に伝える試みだ。