展覧会 福光真実個展『スペシャル・キッス』を鑑賞しての備忘録
HIGURE 17-15 casにて、2025年3月16日~30日。
木製パネルの木地を活かし、赤や緑を中心とした半ば抽象化したイメージを油絵具やクレヨンで描き出した絵画で構成される、福光真実の個展。
冒頭に掲げられた、展示作品中最大の作品(1120mm×1455mm)は、一部木地を残しつつ、赤系統や緑系統の色面に塗り分けられる。部分を見ていくと、星のような形、折り紙の輪飾りのようなイメージに気付く。それでも何を表現したものかは判然としない。タイトルが《ウシまたは恐竜》と分かると、黄色い蹄のある4本の肢が支える赤い胴、画面の左上で90度に折れて真下に異様に長く延びる首と頭部、画面右端の輪飾りのような尻尾が見えて来る。頭部は2つあり、2頭いるのか、あるいは1頭が頭を動かしている様子かが表現されている。牛ならば黄緑や緑は牧草地やその照り返しの光なのかもしれない。
《チャリンコ爆走》(330mm×330mm)もタイトルを見なければ、中央付近の黄色い自転車の形に気付かないだろう。赤や緑を塗りたくったやや暗い画面を白い渦巻で埋め尽くした作品は《ネコのしっぽ》である。ネコが動かす尾の軌跡は、アイヌの伝統的な刺繍など呪術的な意味合いを含んだデザインを想起させる。
《ワンモアチャンス!》(910mm×652mm)は4匹の獣が飛ぶように駆け回っているのが分かる。岡本太郎の《森の掟》で跳躍する動物たちの姿を彷彿とさせる。
《フェイス》(530mm×530mm)は、木製パネルの素地を残して、青、赤、黄、緑、オレンジなどの短い線を繋いで目や口を表わしているのが分かる。色取り取りの油絵具やクレヨンを用いたドローイング的な作品は、クラッカーが弾けたような印象である。
《歯》(605mm×800mm)は木製パネルの木地に青の太い線で蝶のような輪郭を画面ギリギリいっぱいに描いている。色取り取りの短い線を繋いで触覚のようなものが表わされている。ベタ塗りでは無いが、熊谷守一の作品に通じるものがある。
画面一杯に混沌としたイメージを塗りたくる暴力性に対して、木製パネルの木地にドローイングのように最小限に描出したイメージをぶつける。それは、赤系統と緑系統の補色的な組み合わせ、星の形や色取り取りの輪繋ぎのような線による光と相俟って、対立するものをぶつけることで爆発を惹き起こすようである。それは岡本太郎の対極主義的な発想や原初的・根源的なものを捉えようとする衝動に通じるものがある。