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芸術鑑賞の備忘録

映画『テッド・バンディ』

映画『テッド・バンディ』を鑑賞しての備忘録
2019年のアメリカ映画。
監督は、ジョー・バーリンジャー(Joe Berlinger)。
原作は、エリザベス・クレプファー(Elizabeth Kloepfer)"The Phantom Prince: My Life with Ted Bundy" 。
脚本は、マイケル・ワーウィー(Michael Werwie)。
原題は、"Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile"。

1969年のシアトル。エリザベス・クレプファー(Lily Collins)は秘書として働きながら幼い娘モリーを育てるシングル・マザー。ある日友人のジョアンナ(Angela Sarafyan)に誘われて学生街の酒場に出かける。エリザベスは法律を学ぶ大学生テッド・バンディ(Zac Efron)に声をかけられ、意気投合する。テッドはエリザベスを家まで送り、玄関でモリーのベビー・シッター(Sydney Vollmer)と鉢合わせるが、テッドはエリザベスが子持ちであることを気にする様子はない。翌朝、エリザベスが目を覚ますと、テッドはモリーの世話をしながら、朝食の準備をしていた。エリザベスとモリーはテッドと暮らしをともにするようになる。月日は流れ、1975年のある日、ユタ州で未明にビートルを運転していたテッドは、信号無視を繰り返したとして警官に逮捕される。当時サマミッシュ湖(ワシントン州)でビートルに乗る男性に声をかけられて失踪した二人をはじめ、複数の若い女性の殺人事件が話題となっていて、テッドと似た男性の人相書きが公開されていたのだ。キャロル・ダロンチ(Grace Victoria Cox)が警察の面通しで自らを誘拐しようとした犯人としてテッドを選び、法廷でテッドが犯人であると証言した。テッドの弁護人であるジョン・オコンネル(Jeffrey Donovan)は事前に捜査官から写真を見せられたのではないかとキャロルの予断の可能性を突くが、加重誘拐の有罪判決が下る。テッドは何者かが自分を陥れようとしているとエリザベスに釈明し、希望を持つよう訴える。だが収監されたテッドに対し、今度はコロラド州の捜査当局が殺人事件の被疑者として移送を求めるのだった。

 

甘いマスクの好青年テッド・バンディが若い女性をレイプし殺害することを繰り返していたというショッキングな事件をテーマとするが、主にテッドの恋人であるエリザベス・クレプファーの視点から描くことで、テッドの犯行など残虐な面が見えないまま話が展開する。愛情深いテッドと報道される鬼畜の所業との落差に、エリザベスがテッドの冤罪の主張をとても否定することはできないという事情が理解される。犯行をほとんど描かず、なおかつ「結末」も分かっているにも拘わらず、緊張感を保ったまま展開させる手腕は見事だ。
死刑執行を控えたテッドを悲愴の覚悟で面会に訪れたエリザベスが真実を語るよう懇願した後、彼が最終的にとった行動が、その行為そのものは本来何ら問題のあるものではないが、伝えられるある単語(!)と彼の表情とが相俟ってもたらされるおぞましさは、それまでの流れを一気に覆す、クライマックスにふさわしい衝撃をもたらす。それまでのプロットはこの場面のためを描くためにこそあったのだ。