可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 岡千尋個展『Echoes of Days』

展覧会『岡千尋「Echoes of Days」』を鑑賞しての備忘録
銀座 蔦屋書店 アートウォールにて、2026年5月30日~6月26日。

女性と植物や生き物とが融け合うように組み合わされる絵画で構成される、岡千尋の個展。

《PARADE》(970mm×1620mm)は、チューリップを抱える女性と蝶とを描いた作品。画面左端にチューリップの花束を抱え左に向かう女性の上半身左側が配される。チューリップの花が左に倒れる。散る花弁と豊かな髪の膨らみが足早に進む勢いを表現する。女性は前方やや上方を見据える。彼女の左肩の辺りにもう1人の女性の顔が位置する。同じくチューリップの花束を抱えるがやや俯き、視線も下へ向かう。お提げは後方に流れ、速度は感じられる。お提げの女性の背後にはヴェイルを被った女性が湧き上がる。さらにその背後には右上に向かって舞う巨大な蝶の姿が連なる。女性たちと蝶、チューリップは樹と水色を基調とした色で一体的に表わされ、箔を押した銅色の背景に浮かび上がる。蝶は「胡蝶の夢」を暗示し、現実と夢とが渾然一体となる。
《繭と空》(803mm×1167mm)には横たわる2人の女性が描かれる。草叢に横たわる1人にもう1人が顔を寄せ、2人は手を重ね合う。いずれもワンピースのドレスを身に纏い、背後は植物模様で周囲の草花と連続する一方、表側は淡い水色に黄やピンクが差す模糊とした膨らみであり。それは空に浮かぶ雲であり繭である。その中に蚕蛾が舞う。大地は空となり、内は外となる。世界は常に反転し、あるいは入れ籠となる。
《演奏会》(1167mm×1167mm)は、コンサートホールの客席に佇む2人の少女を描いた作品。白いワンピースに赤い帯という揃いの衣装の2人が並んでいる。背後には赤い座席が整然と並ぶが誰も座っておらず、彼女たちもまたシートには腰を降ろしていない。客席を薔薇が覆う。2人はこれからピアノの演奏に臨むのだろうか。緊張を解くために赤い客席には薔薇の花が並んで咲いているのだと思い込もうとしているようだ。
《夢の影》(853mm×652mm)は木陰にいる女性を表わした作品。女性のやや俯く顔を中央上部に配し、女性の頭部と交叉するように木の幹が斜めに突き出す。彼女と葉叢とが渾然一体と表わされる。その中から黒い揚羽蝶が舞い上がる。木陰に羽を休ませていた女性は飛び立つ決意を固めたようだ。
《おでかけ》(530mm×333mm)は兎のぬいぐるみを抱えて玄関から出る少女を描く。格子柄のパフスリーブのあるワンピースを身に着けた少女は左手で自分の身体の半分はある、ワンピースと同じ色味の大きな兎のぬいぐるみを抱えている。親に連れ出される彼女は、自分も負けじと「兎」をおめかしさせて外出させる役割を果たすつもりなのだろう。ドアの内と外とどちらにも植物が姿を見せる。内と外との区別はまだ着いていない。少女にとって夢と現実とは地続きだ。
《escape》(300mm×300mm)には游泳する金魚に見蕩れる幼女が表わされる。右から左に流れて行く金魚に夢中だ。彼女の後ろ髪からはもう1匹の金魚の尾鰭と接続する。彼女は金魚となって現実から離れて水の中をゆらゆらと泳ぎ廻るのだ。
《まちあわせ》(410mm×318mm)は伏し目勝ちな女性の像を描いた作品。ピンクの格子柄の衣装は、彼女の豊かな髪と、植物とによって隠されている。ピンクと緑との葉叢に一体化するように彼女は佇む。開花する時機を待つ。輝く笑顔の見られる瞬間を思い描きながら、鑑賞者もまたその時を楽しみに待つ。