映画『はちどり』を鑑賞しての備忘録
2018年製作の韓国・アメリカ合作映画。138分。
監督・脚本は、キム・ボラ(김보라)。
撮影は、カン・グクヒュン(강국현)。
編集は、チョ・スア(조수아)
原題は、"벌새"。英題は、"House of Hummingbird"。
団地の902号室。少女がベルを鳴らすが応答がない。再びベルを鳴らしても、ドアを叩いて必死に母親を呼ぶが、ドアが開く気配はない。隣にも、上下階にも同じようなグレーのドアが並ぶが、少女のために開かれるドアは1つとしてない。
1994年、ソウルの文教地区デチドン。中学校の教室で、英語の授業が行われている。中学2年生のキム・ウニ(박지후) は漫画を書くのに夢中。教師から指され、続きを読むよう促されるが、どこを読んでいいか分からない。隣の生徒に示された場所をたどたどしく読み始める。休み時間も寝たふりをして周りの生徒をやり過ごすウニは、ポケット・ベルに入るキム・ジワン(정윤서)からのメッセージだけが頼り。下校の際、ジワンがウニを迎えに来て、ささやかなデートを楽しむ。家に戻ると、私室のクローゼットに派手なファッションに身を固めた姉のスヒ(박수연)が隠れている。そこへ父(정인기)が、スヒが塾へ行っていないが知らないかとやって来る。ウニは姉の要望通り知らないふりをする。父が立ち去り姉が出て行った後、ウニも中国古典を習いに塾に向かう。もっともイラストを書いたり親友のチャン・ジスク(박서윤)と筆談で先生の悪口を言い合ったりと遊びに行っているようなもの。帰宅すると、姉が父から散々に叱られている。地元の進学校へ入学できずハンガンの対岸の高校まで通わなければならないどうしようもない娘だと。夜遅くにも拘わらず、突然家のベルが鳴らされる。伯父(형영선)が訪ねてきたのだった。伯父は母(이승연)のことを兄弟の中で一番可愛がっていたとか、自分の学費のせいで大学に行かせてやれなかったといくつか悔悟するような内容を両親の前で述べると、母がリンゴくらい食べていけばと止めるのも固辞してすぐに立ち去る。父は伯父が出て行くと、常識がない奴だと憤然としている。ウニの父は母とともに餅屋を営んでいる。大量注文が入ると一家総出で対応した。ウニの両親の関心は、専ら生徒会長を務める優等生の兄デフン(손상연)がソウル大学に入ることにある。食事の場でも父は仕事の話か兄の話しか話題にせず、母はウニに勉強する兄の食事の用意を任せたりする。ウニのクラスの担任(박윤희)は、進学だけに価値を見出し、生徒を徹底して管理する。「私はソウル大学に進学します!」と生徒たちにシュプレヒコールさせるような教師だった。ウニは一緒に下校するジワンを物陰に引っ張り込み、キスを迫る。キスしたことがないと戸惑うジワンに構わずキスをする。ウニは日々の憂さを忘れられる強い刺激が欲しかった。帰宅すると、兄から呼ばれる。男といるところを見たぞ。家族に恥をかかせるな。無視して自室に戻ると、兄は再度来るよう命令する。ドアを閉めていけ。再び無視すると、兄は部屋にやって来て、ウニを殴りつける。抵抗すれば、よりひどく殴られることが分かっているから、ウニは抵抗せずに殴られるままだった。ウニが塾に行くと、外の階段でタバコを吸っている女性(김새벽)をみかける。授業が始まると、担当講師がその女性に代わっていた。先生は黒板に"김영지(キム・ヨンジ)"と書いた。大学生だけれど休学しているからそれなりの年齢だとか。遅れて現れたジスクが自己紹介を促すと、ヨンジ先生は一人ずつ自己紹介しようと提案する。
冒頭の場面は、キム・ウニ(박지후)の悲痛なSOSが(とりわけ母親に)届かない状況を象徴する。そして、少しずつ、ウニの置かれた悲惨な状況が明らかになっていく(親友のチャン・ジスク(박서윤)も同じような状況にあって、だからこそ二人が結ばれている節がある)。ウニがこそが「はちどり」。鳥籠に入れられたまま、激しく羽ばたきを繰り返す「はちどり」なのだ。
塾講師のキム・ヨンジ(김새벽)が極めて魅力的なキャラクター。何もできなくても指を動かすことはできるとウニに諭したり、ウニを裏切るジスクを咎めることなく、ただ歌を歌ってみせるなんて、本当に凄い。このキャラクターに出会えただけでもこの映画を見る価値がある。