展覧会『梅原義幸「Surface」』を鑑賞しての備忘録
ARTDYNEにて、2025年7月12日~27日。
単純な形と平板な塗りによる漫画のように記号化された顔が印象的な絵画で構成される、梅原義幸の個展。
《FACE #101(山)》(1450mm×1210mm)は、深緑の画面に、眼、眉毛、口などを描いた作品。一番眼を惹くモティーフである眼は、僅かに右側に傾いた紡錘形の中に角膜の円、さらに菱形の瞳孔を挿入することで表わされる。眼の背後には、白味の強いオレンジで塗られた三角形に近い形(底辺が弧状)が配され、紡錘形に平衡する線で眉毛としている。「三角形」の隣にやや細身の「三角形」が接して並び、背景の深緑の貫入により口が現われる。幾何学形的に単純化された形、限られたモティーフ、単色の絵の具の平板に塗り方によって漫画のような顔が画面に浮かび上がる。擦れたり食み出したりした部分には手仕事の味わいが意図的に残されている。連なる三角形は連峰を連想させる。山に顔を見出すのはアニミズム的であり、その力強い象徴性と相俟って、神話を呼び起こす。因みに、《ネコ》(460mm×390mm)や《ウグイス》(1620mm×1620mm)では、茶色い枝や緑の葉とともにネコやウグイスが描かれる。愛らしいネコやウグイスの周囲の緑の葉の数々は眼の形をしている。やはり眼の遍在、すなわちアニミズムの表象である。
《FACE #99》(1620mm×1620mm)は、緑の画面に、オレンジ、山吹、茶などで眼・鼻・口のある顔を表わした作品。左上、中央上、右上、下段左側、中断左側に5つの頂点を持つ五角形があり、その内部に左上の頂点から右側の直線に向かって、途中山型に突起のある直線が伸ばされる。この線の上側は山吹色、下側はオレンジで塗り潰される。山型が鼻であり、「鼻」の手前で直線を跨いで暗いオレンジ色の方形が口として配される。「口」と五角形の最も長い直線とに平行する眼が茶色とくすんだ桃色で描かれる。但し、画面に近いと顔の形は見えて来ない。画面から距離を取ることで、上を向いた、眼より口や鼻の方が上に来る顔が捉えられる。単純な形とアースカラーから山岳、大地、断崖、地層といったイメージが喚起され、地母神を連想させる。
《FACE #103》(910mm×910mm)は、焦茶色の画面に、茶色、ベージュで横顔を表わした作品。左側に尖った鼻があり、そこから右に急上昇した線は頂点でさらに右へと緩やかに落ちていく。茶色で塗られた顔の上側部分に左側は弧状に、右側は先が右上で窄まる形で眼が配され、円形の角膜に白い矩形の瞳孔が挿入されている。顔の下側はベージュで、短い横線で閉じた口が表わされる。逆向きの笠形で顎を表わし、その端には鋭角により小さく首も表現されている。背景の黒に近い焦茶色など茶色の系統で統一された画面で、白目の面積の大きい眼が目立つ。なおかつ右に窄まる眼の形は、尖る鼻の表現と相俟って、鋭い視線を感じさせる(暗い焦茶の矩形と緑の矩形の中にに象徴される自然の中へと分け入る女性の横顔を描いた《FACE #102(探険)》(1390mm×1150mm)において、彼女の眼がおたまあるいは四分音符のように表わされているのと対照的である)。闇に包まれて視線を感じるのは、自然の超越的な力に対する信仰の現れではないか。