展覧会『髙柳恵里「場所と大きさ」』を鑑賞しての備忘録
藍画廊にて、2025年9月1日~13日。
段ボール箱の上に置いた化粧箱や角皿に載せたチーズを撮影した写真、柱とロッカーを描いたドローイング、壁に貼った板やガムテープ、簡易ベッドなどで構成される、髙柳恵里の個展。
入口付近の壁に掛けられた《箱に箱》(297mm×210mm)は、灰色の絨毯を敷いた床の白い壁の際に置いた段ボール箱と、その上の菓子か何かの白い化粧箱とをほぼ真上から捉えた写真。タイトルの通り、箱の上に箱を重ねた状態を映す。茶色い矩形、白い矩形、灰色の矩形の重なりである。その重なりは、プリントされたイメージ、プリントした紙(イメージの周囲に会えて大きく余白をとってある)、さらには写真の展示壁面へと平面の連鎖をイメージさせる。同時に、段ボール箱にはガムテープが剝がされた跡により一旦は開梱されていることが分かり、箱の内部、すなわち空間を意識させる。箱とそれを置いた部屋、そのイメージ映した写真を壁面に展示するギャラリー、ギャラリーの入居するビル。文字通りの入れ籠の関係がある。
展示室の壁龕(ニッチ)には、丸めたクラフト紙を入れた赤い紙袋、気泡緩衝材で覆った板(以上が《荷物置場/位置(テープの)》)、さらに正方形のチーズを載せた角皿の写真《皿にチーズ》(297mm×210mm)が置かれている。壁龕の矩形を画面とする静物画のようである。あるいは、板、写真、赤紫の紙袋、さらには気泡緩衝材やクラフト紙を止める紙テープの矩形が織り成す抽象絵画のようでもある。また、《皿にチーズ》のチーズ、角皿、イメージ、写真をプリントした紙の入れ籠が、壁龕、延いては展示室、ビルとの入れ籠の関係を想起させもする。
《位置(壁のどこ)》は、白い壁面の中央付近に小さな茶色の板を画鋲で留め、向かいの壁面のやはり中央付近には茶色のガムテープを貼ってある。ガムテープを貼った壁面は展示室を仕切る壁で、板を留めた壁面よりも幅が狭い。そのために中央の位置はずれる。また、板に対し、ガムテープを縦に長い。茶色い板は絵画を擬態するとともに、壁面を絵画とする点=筆触として打たれている。また画鋲は絵画としての板の点=筆触でもあり、絵画としての壁面の点=筆触でもある。ガムテープもまた壁面に描かれた線として、壁面を絵画化する。ところで、絵画は窓に比せられる。板とガムテープが絵画となるなら、窓にもなり得る。ところが、もう1つの壁面の窓が現に存在する。茶色い面の板とガムテープとが窓として機能するとき、閉ざされた窓となる。逆接的に絵画が窓ではなく、壁であることが明らかになる。壁=絵画は洞窟壁画という原初的なイメージを思い起こさせる。
《サマーベッド》(710mm×570mm×1650mm)は、灰色の折り畳み式の簡易ベッドに灰色の布を掛け、展示室の中央に設置した作品である。白い壁と灰色の床に馴染んでいる。簡易ベッドが向けられているのは窓である。仮に簡易ベッドに横たわれば、窓越しに向かいのビルに並ぶ窓を眺めることになるだろう。窓の奥の窓、矩形の連鎖がある。窓は絵画のメタファーでもある。人々の認識を構成するのはガラス越しの作られたイメージ、すなわちディスプレイに次々と現われる映像ばかりというデジタル社会の現実を、アナログな手段で訴えている。