映画『タイガー・ストライプス』を鑑賞しての備忘録
2023年、マレーシア・台湾・シンガポール・フランス・ドイツ・オランダ・インドネシア・カタール合作。
95分。
監督・脚本は、アマンダ・ネル・ユー[Amanda Nell Eu]。
撮影は、ジミー・ギンフェラー[Jimmy Gimferrer]
美術は、シャロン・チン[Sharon Chin]。
編集は、カルロ・フランシスコ・マナタッド[Carlo Francisco Manatad]。
音楽は、ガッバー・モード・オペランディ[Gabber Modus Operandi]。
原題は、"Tiger Stripes"。
制服を着たザファン(Zafreen Zairizal)が正面を見据える。
女子小学校のトイレ。ザファンが音楽に合わせて激しく踊りながら、トゥドゥンを外し、制服を脱ぎ捨てる。その様子をファラー(Deena Ezral)とマリアム(Piqa)がスマートフォンで撮影しながら見守る。撮影を終えたところで、個室から下級生が出て来て動揺する3人。ファラーがここは上級生用のトイレだと行って彼女を追い払う。どこで手に入れたの? 見たい? ザファンが身に着けている黒いブラジャーをシャツの脇から見せる。試してみたい? ザファンが外して、ファラーが制服の上からブラジャーを当てる。トイレのドアがノックされる。開けなさい! 3人は動揺する。ファラーとマリアムが個室に隠れ、ザファンがドアに近付く。生活指導の先生を呼ぶわよ! ドアが開かないんです。開けるのを手伝ってくれませんか? 1、2、3! 先生(Natasha Rafizi)がトイレに入ってくると、ザファンが擦り抜けてトイレから逃げ出す。
校庭。生徒たちの前にザファンを立たせた校長(Fatimah Abu Bakar)が説教する。トイレはみんなが使う場所です。あなただけの場所じゃないのよ。腕が痒いザファンが袖を捲って引っ掻いていると、校長に袖をおろすよう注意される。学校に対する敬意も仲間たちへの思いやりもないのね。ザファンの肩を持つ人はいますか? 前へ出なさい。上級生は下級生のお手本にならなければなりません。そんな態度をとっていたらろくでもない人間になってしまいますよ。試験まであとわずかです。毎年中国人ばかりが好成績です。マレー人は何をしているのですか? 問題を起こして立たされるだけですか?
ベルが鳴り、生徒たちが続々と下校する。
ザファンがファラとマリアムとともに星形のシールを電柱や広告に貼りながら歩く。お互いにもシールを貼り合う。
3人は森の中を流れる川に立ち寄る。ザファンは制服を脱いでが水に入り、蛙を捕まえてファラやマリアムに近づける。ファラは嫌がり蛙を殺してと叫ぶ。ザファンは川に蛙を放つ。ザファンは3人で水かけっこをして、一番濡れた人が蛙を食べ蹴ればならくなってしまう遊びを提案する。ザファンとミリアムが水を掛け合いはしゃいでいると、ファラがザファンを突き倒す。いつも自慢してる。蛙食べるのはあんただよ。私がいつ自慢してるの? じゃあなんでブラジャーを着けてるの? 先生たちにバレるかもしれなかったのに。もう謝ったでしょ。そんなもの着けるのは尻軽女だけよ。一体どこで手に入れたのよ。怒るファラにザファンとマリアムがニャー、ニャーと声を掛ける。ザファンがブラジャーを外して川に落とす。3人が水を掛け合い、はしゃぐ。
制服を着ないまま帰宅するザファン。居間にいる父親(Khairunazwan Rodzy)に挨拶する。ただいま。おかえり。ザファンはすぐにテーブルのクエダダールを食べ始める。ただいま。母親(June Lojong)が帰宅する。おかえり。母親がザファンの姿を見咎める。そんな格好で帰って来たの! 雨に濡れたらみんなあなたみたいに裸になるわけ! そうかもね。母親は激昂し、ザファンを捕まえて家から外へ連れ出し、地面に突き倒す。お前は一家の恥さらしだ!
女子小学校に通うザファン(Zafreen Zairizal)はファラー(Deena Ezral)とマリアム(Piqa)と連んでいる。他の生徒より発育の良いザファンはブラジャーを着け登校し、トイレで制服を脱ぎながらダンスをする様子をファラーとマリアムに撮影させる。騒ぎを聞きつけたアジザ先生(Natasha Rafizi)に見付かり、ザファンは朝礼で皆の前に立たされ校長(Fatimah Abu Bakar)に叱られる。3人が森を流れる小川へ水浴びをしに行くと1人だけ制服を脱いだザファンはファラーから発育の良さを自慢してると妬まれる。制服を着用せず肌を見せて帰宅したザファンは恥さらしだと母親(June Lojong)に酷く叱られた。その晩、ザファンは初潮を迎える。サラーに参加しなかったことからマリアムの初潮は瞬く間に皆に知られることになった。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
少女の成長に対する戸惑いを人虎伝説に重ねて描く作品。ある日を境に周囲の扱いが絶望的に変わっていくという点では、マレーシアの小学生版「変身[Die Verwandlung]」とも言えよう。
月経禁忌が長い間受け継がれてきた背景には、世界各地の宗教が存在した。キリスト教もイスラム教も仏教も、月経を禁忌とみなしている。
(略)
また、『コーラン』雌牛章にも、次のように記されている。
かれらは月経に就いて、あなたに問うであろう。言ってやるがいい。「それは不浄である。だから月経時には、妻から遠ざかり、清まるまでは近付いてはならない。それで清まった時には、アッラーが命じるところに従って、かの女らに赴け。誠にアッラーは悔悟して不断に帰るものを愛でられ、また純潔の者を愛される」。(田中ひかる『生理用品の社会史』KADOKAWA〔角川ソフィア文庫〕/2019/p.68-69)
大人びた行動を取る発育の早いザファンが誰より早く初潮を迎えたことは、サラーに参加できないことからすぐに皆に知れ渡った。いつも連んでいた生徒会役員のファラーは、ザファンに対する嫉妬の裏返しで、皆とザファンを苛めるようになる。仲の良かったマリアムもファラーとの手前、ザファンと距離を取るようになる。生理的現象をきっかけに不条理な仕打ちを受けるザファンは、ファラーから聞いていたイナ――生理用ナプキンの洗浄を怠り発狂して森へ消えた女――と思しい女(Bella Rahim)を森の樹上に幻視するようになる。それとともにザファン自身の身体にも異常が生じるようになる。
月経が精神に影響を及ぼすこと自体は否定できず、「月経前不快気分障害(PMDD)」という診断名も存在する。しかしそのパーセンテージはきわめて低く、治療法も確立されつつある。それにもかかわらず、月経と精神変調を安易に結びつけることは、女性には責任ある仕事を任せられないといった偏見を助長することになる。
月経は単なる生理現象である。その単なる生理現象が、「穢れ」や「精神変調の原因」と見なされてきた歴史の、今はまだ延長線上にある。(田中ひかる『生理用品の社会史』KADOKAWA〔角川ソフィア文庫〕/2019/p.77-78)
ボモ(呪術師)のラヒム(Shaheizy Sam)が学校に招かれ、変調を来す少女たちに対処しようとする。だが、効果は全く無い。少女たちを抑圧する学校≒社会の管理体制にこそ原因があり、その除去を図ることが無いためである。
ブラジャーを着けたり、激しいダンスを踊ったりする大人びた部分と、シールをペタペタ貼ったり蛙で友人を脅かしたり水遊びして下着姿で帰宅してしまう子供っぽい面とが同居するザファン。おやつを黙々とがつがつ食べる姿からは急激に成長している様が暗示される。初潮を迎えた後は、服に付いた揚羽蝶の幼虫を撫でもはや子供では無くなった自らに思いを馳せ、先に大人になってしまった孤独が滝の前の岩に1人坐る場面で描かれる。
生理(用品)をモティーフとした作品に、詩森ろばの戯曲『アンネの日』(2017初演)、インド映画『パッドマン 5億人の女性を救った男[पैडमैन]』(2018)がある。