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芸術鑑賞の備忘録

映画『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』

映画『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』を鑑賞しての備忘録
2019年のフランス・ベルギー合作映画。
監督は、レジス・ロワンサル(Régis Roinsard)。
脚本は、レジス・ロワンサル(Régis Roinsard)、ダニエル・プレスリー(Daniel Presley)、ロマン・コンパン(Romain Compingt)。
原題は、"Les traducteurs"。

机の上に置かれた本が火に巻かれていく。書棚にびっしりと並んだ本にも炎が及ぶ。フランスの地方都市にある書肆フォンテヌの店内。
ドイツのブックフェア。世界的なベストセラーであるフランスの小説、オスカル・ブラック著『デダリュス』三部作の完結編『死にたくなかった男』が翌年春に発売されることが発表される。出版社アングストロームを成功に導いた創業者エリック・アングストローム(Lambert Wilson)は、ステージから聴衆に、版権を獲得した交渉力を誇るように訴え、悦に入っていた。
アングストロームは、世界同時発売を実現するため、9つの言語の翻訳者を呼び寄せる。スケートボードを持ち込む若者は英語翻訳者のアレックス・グッドマン(Alex Lawther) 、左手を怪我して包帯を巻いている吃音のスペイン語翻訳者のハビエル・カサル(Eduardo Noriega)、パンク・ファッションの短髪の女性はポルトガル語翻訳者のテルマ・アルヴェス(Maria Leite)、カサノヴァの雰囲気を持つイタリア語翻訳者のダリオ・ファレッリ(Riccardo Scamarcio)、往年のヒッピー・スタイルを彷彿とさせるドイツ語翻訳者のイングリッド・コルベル(Anna Maria Sturm)、夫と子とを置いて参加しているデンマーク語翻訳者のエレーヌ・トゥクセン(Sidse Babett Knudsen)、皮肉屋だが報酬につられて翻訳を引き受けたギリシャ語翻訳者のコンスタンティノス・ケドリノス(Manolis Mavromatakis)、『デダリュス』のヒロインであるレベッカを思わせる出で立ちで現れたロシア語翻訳者のカテリーナ・アニシノバ(Olga Kurylenko)、パリでの生活が長い中国語翻訳者のチェン・ヤオ(Frédéric Chau)。翻訳家たちを乗せた車が向かったのは、パリ郊外にある豪邸。建物に入ると、空港の手荷物検査所のような設備が用意され、通信機器や記憶装置の持ち込みが厳重にチェックされた。無事通過すると、アングストロームの助手のローズマリ-・ウェクス(Sara Giraudeau)が現れる。建物は、作品のファンだというロシアの富豪の所有で、地下にはアパルトマンがまるまる一棟収まる規模の広大なシェルターがあるという。彼女に導かれて、翻訳者の一行は、暗証番号の入力が必要な頑丈な扉を通り抜け、プールやボウリング場、バーなどの設備を案内された後、仕事場へと向かった。それぞれにPCと国旗の飾りが置かれた9台の机が整然と配され、背後には翻訳に当たって困ることはないという膨大な資料の棚が並んでいた。アングストロームが現れ、毎日20頁だけ原稿を配布し、指定された作業時間内だけ翻訳に当たること、最初の1ヶ月で草稿を仕上げ、翌月の1ヶ月で遂行すること、という作業計画が告げられる。小説の内容が流出することを防ぐため、作業した内容の記憶装置は毎回取り上げられ、ちょっとした不規則な行動をとってもすぐに武装した屈強な警備員が駆けつける。翻訳家たちは監禁生活を強いられることになったのだ。

 

癖のあるキャラクターたちが織りなすスリリングなサスペンスが展開し出すと、作品の世界に没入して謎解きを楽しむことができる。
見せ球を見せつけられるとその分だけ面白くなる。
制作者からのメッセージも極めて明快であるうえ、共感できる。
ある言語を話せなくとも、数字だけは知っているということはあるものだ。