可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 Houxo Que個展『Proxy』

展覧会『Houxo Que「Proxy」』を鑑賞しての備忘録
Gallery OUT of PLACE TOKIOにて、2020年2月21日~3月29日。

Houxo Queによる、液晶ディスプレイを支持体として描いた「絵画」を中心とした作品展。

Houxo Queの「絵画」の支持体である液晶ディスプレイは1秒間に60色の光を明滅させ続けている。鑑賞者は、初めのうちは白く光っているように見える画面に、次第に様々な色の光を認識できるようになる。そのディスプレイのガラス面には半透明の絵具による描画がある。
ラスコーやアルタミラといった洞窟の絵画にせよ、サンタ・マリア・デッレ・グラーツィエ修道院の食堂の絵画《最後の晩餐》にせよ、絵画は壁面に直接描かれた。その後、絵画はキャンバスに描かれることで、可動性=流通性を手に入れた。版画、さらに近時はデジタル・データにより、絵画は遍在性を獲得しつつある。だが、作者はデジタル描画により液晶ディスプレイに表示させる方法を選択せず、液晶ディスプレイのガラス面に直接絵具を塗ることで、「絵画」がデータではなくモノであることへの執着を示している。テクノロジーの発達により絵画が物質からデータへの過渡期の形態を象徴的に表した作品は、同時に、物質=肉体への拘泥、すなわち絵画がモノや行為と不即不離であるとの主張ともとらえられる。天井から吊され、斜めに傾いたディスプレイを空洞のパイプが貫通した作品では、パイプを通じてディスプレイの裏側(ギャラリーの壁面)が見通せる。ディスプレイの映像が虚像であることが曝け出されるとともに、ディスプレイのモノとしての性格が強調される。また、磔刑図(=キリスト)のようとも評されるこの作品は、「ロンギヌスの槍」としてのパイプを通じて、絵画の死(画面が真っ暗な状態)と再生(画面に画像を表示された状態)とを顕現しひいては(異端の説ではあるが)キリストが神の代理人(proxy)であることを示すようでもある。そのとき「絵画」の1秒間に60色の発光は、ステンドグラスの役割を時間差で担うことになろう。