展覧会『江藤玲奈展「Dot to Dot」』を鑑賞しての備忘録
ギャラリー・フェイス トゥ フェイスにて、2020年4月17日~26日。
日本画を基盤としながら様々な技法を取り入れて制作している、江藤玲奈の絵画展。
本展のメインヴィジュアルに採用されている《framework 1》は、画面に垂らした墨がつくる点と点とを線で結び、そこに犬・猫・鳥を描いている。星々をつないで動物や神の姿を見出す星座の発想が制作に取り入れられている。動物は昔話の中に登場するキャラクターがイメージされており、その点でも、ギリシャ神話が重ね合わされた星座に似る。なお、《framework 5》や《framework 6》では具体的な民話がテーマとなっている。
《sign・シカ》と《sign・トリ》は、黒く塗られた円形の画面に頭の白い釘が複数打たれており、ストッキングや紐がそこに結ばれることでシカやトリの図像を表したもの。「framework」シリーズが星座の持つイメージを尊重して、点と線とのつくる形と動物のイメージとをあえて乖離させているのと異なり、釘のつくる点はシカやトリの輪郭を形作るように配されている。また、ストッキングの透過性を活かして一部「体内」が見え、そこには骨格か神経かを表す内部の構造が頭の小さな釘と紐とを用いて表されている。ひょっとしたら、こちらは具体的な動物を表しているのかもしれない。その身体にも星=釘頭を表すことで、天体=マクロコスモスの星座(絵画の「framework」シリーズ)と、動物の身体=ミクロコスモス(立体的な「sign」シリーズ)とが照応する構造を表現しようとしているように思われるからだ。
昔話の登場人物を描いた《羊頭のアン》や《モリーと金の鎖》は、繊細なボーダー状の皮膚の表現が興味深い。また、その頭部(毛)の表現に砂鉄を用い、磁場を利用して描画している。さらに《ネズミ女房》や《ツル女房》では、《羊頭のアン》や《モリーと金の鎖》と同様の技法に加え、人間の姿をしたネズミやツルを、横向きの姿に描き、あたかもレントゲン写真のようなツルやネズミの姿が胴体に隠されている様を表す。そこにはX線という電磁波のイメージが重ねられている。
地球も1つの電磁石なら、床(=大地)に置かれた紙に滴った墨汁も砂鉄のようなものかもしれない(岩絵の具=鉱物はもちろん、地球の欠片だ)。そして、天球という、地球の相似形である想像上の球体に引き寄せられた星々が星座なのだろう。From a dot to another dot. 大地(the earth=the globe)上の点から天球(the celestial globe)上の点へ。