可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 コ・スンヨン個展『Omnibus』

展覧会『コ・スンヨン「Omnibus」』を鑑賞しての備忘録
MEDEL GALLERY SHUにて、2025年8月1日~13日。

映像とともに構成される日常の光景を絵画に落とし込む、コ・スンヨン[고승연]の個展。絵画と陶器とで構成される。

《Selfie (2)》(413mm×315mm)の画面右上4分の1をピンクのTシャツを着た上半身を左上方から捉え、画面下段中央にパンツにサンダルの右脚を描いた作品。首元は映るが顔は見えない。左脚は後ろに引いているらしく太腿のみが見える。左腕が画面から切れているのは自撮りのためにスマートフォンを高い位置に持ち上げているためであろう。背景(地面)は水色で、額縁代わりにごく緩やかな起伏のある白い曲線で縁取っている。
《Mary jane》(335mm×442mm)は素足を見下ろすように描いた作品。画面下端に右の太腿が左の太腿に重ねられ、画面上部に両脚の黒いサンダルを履いた足が位置する。太腿の下にある水色と白は椅子の座面か。脚の背景となる床は暗い板で木目が見える。右下には黒い影も見えるが本人のものではないようだ。画面の周囲には西洋唐草のようなものが描いてある。
《Yamanote line》(650mm×525mm)は電車内に立つ2人の女性を上方から捉えた作品。画面下に白いTシャツを着てアニマル柄のスカートを穿き、綿布の袋を提げた人物が立ち、その袋の持ち手に付いた得体の知れない赤いマスコットを向かいの人物が摘まんでいる。マスコットに触れている女性は紺色の服を着ていて、左上に描かれる顔は灰色で曖昧に表される。ハイライトは彼女の持つ白い紙製の袋(?)である。
《Selfie (1)》(720mm×605mm)は、白いキャミソールにデニムのパンツの女性が坐って上を向く姿を表した作品。上端に彼女の顔が位置するが眼は画面上段で切れて表情は定かでない。顔の周囲には赤いセミロングの髪が覗く。顔や肩、スマートフォンを掲げている左腕がレンズから近いためにやや大きく、レンズから遠い脚はやや小さく表される。画面下部には別の画面があり、立ってスマートフォンで自撮りする白Tシャツに短パン姿の女性が映っている。おそらくメインの画面の女性と同一人物だろう。なおかつその画面には、この絵画に近いイメージ(左右が反転し、下部の別画面は存在しない)が映り込み、入れ籠の関係となっている。画面の両脇を白く塗り込め、十字と眼のような記号を組み合わせたものが縁を取り巻いている。
《Baptism》(803mm×1000mm)は、中央に女性の顔を描き、その左右を取り囲むように、花束を持つ縞のジャケットの人物と胸元に十字を提げた人物(?)とを配した作品。女性の顔は黒でドローイング調で薄暗く描かれ、青い格子の中に沈んでいる。対照的に縞のジャケットの人物のシャツや十字を提げた人物の衣装は明るい白で塗り潰されている。白く輝くシルエットと格子の奥に囚われ顔とが対照的である。画面の周囲を赤い十字が取り巻いている。画題通り、洗礼の儀式を表したものだろうか。
《Line 3》(725mm×605mm)は、青と白の格子の上にデッサン調で描かれた女性の胸像。黒いジャケットを羽織る女性は、やや左側に顔を向けて俯き、人差指と中指とを突き出した右手で右頬を覆っている。女性の指と彼女の周囲は赤い絵具で塗り込められている。画面の周囲は交互に並ぶ白い十字と眼のような記号とで飾られている。
《Gyeongui-joongang Line》(650mm×528mm)は、ガラス張りの空間に佇む、肩からバッグを提げた、赤いタンクトップ姿の女性の胸像。縦に1本、横に2本走る白い線の上に女性の姿がデッサン調で表されている。彼女の背後には部屋か通路、また、照明のようなものが描かれる。画題からすると、韓国の鉄道の車内なのかもしれないが、判然としない。
《Line 4》(700mm×608mm)は、リュックを背負った短髪の男性とその隣に並ぶ女性とを描いた作品。男性の胸や女性の顔には青い格子がぼんやりと浮かぶ。女性の顔は風景に溶け込むようで、彼女の身に付けた服には絵画(?)の断片的なイメージが複数描き込まれている。2人の背後にはガラスの格子がある。画面上端の枠は、映り込んだ指にも見える。

《A letter》(807mm×970mm)は騎馬の女性の姿を赤いシルエットで表した作品。中央付近の騎馬像の周囲には、画面右下の馬の頭部、画面上端の馬の蹄、画面左上の馬の後ろ肢などがスケールを違えながらもやはり赤いシルエットで描かれている。それらのイメージの周囲は針葉樹のような黒い記号的なイメージが埋め、あるいは白で塗り潰されている。画面の周囲は青い十字の列が縁取る。

《Flower》(605mm×495mm)は、窓越しの青空(?)を背景に、赤く細かい斑が入った黄色い蘭を中心に描いた作品。別の白い花のイメージも重ねられる。「窓」の周囲はペールオレンジの壁が囲う。

画面に頻繁に登場する格子に登場人物は囚われ、暗い表情を浮かべている。格子は檻、牢獄である。同時に格子は座標や画素を連想させる。全て[omnis]がデジタルデータに置き換えられていく世界を表現するようだ。もっとも縁飾りなどに見られる記号のパターンは、いくらでも複製可能なデジタルデータに対し、不均一・不統一によって、却って手書きによる一回性を印象づける。ならば、翼を拡げたような形態の平たい壺に絵を描いた「Alibi」シリーズは、そのような世界から他の[alius]場所[ibī]へと抜け出したいという欲求の表現とも解される。絵画に表現される自撮りの視座は、ファインダーを除く必要から解放されている。主観に限定されない自由な眼差しにより、自己をこの世界の束縛から解き放つ可能性を模索しているとも言えよう。

展覧会『コ・スンヨン「Omnibus」』を鑑賞しての備忘録
MEDEL GALLERY SHUにて、2025年8月1日~13日。

映像とともに構成される日常の光景を絵画に落とし込む、コ・スンヨン[고승연]の個展。絵画と陶器とで構成される。

《Selfie (2)》(413mm×315mm)の画面右上4分の1をピンクのTシャツを着た上半身を左上方から捉え、画面下段中央にパンツにサンダルの右脚を描いた作品。首元は映るが顔は見えない。左脚は後ろに引いているらしく太腿のみが見える。左腕が画面から切れているのは自撮りのためにスマートフォンを高い位置に持ち上げているためであろう。背景(地面)は水色で、額縁代わりにごく緩やかな起伏のある白い曲線で縁取っている。
《Mary jane》(335mm×442mm)は素足を見下ろすように描いた作品。画面下端に右の太腿が左の太腿に重ねられ、画面上部に両脚の黒いサンダルを履いた足が位置する。太腿の下にある水色と白は椅子の座面か。脚の背景となる床は暗い板で木目が見える。右下には黒い影も見えるが本人のものではないようだ。画面の周囲には西洋唐草のようなものが描いてある。
《Yamanote line》(650mm×525mm)は電車内に立つ2人の女性を上方から捉えた作品。画面下に白いTシャツを着てアニマル柄のスカートを穿き、綿布の袋を提げた人物が立ち、その袋の持ち手に付いた得体の知れない赤いマスコットを向かいの人物が摘まんでいる。マスコットに触れている女性は紺色の服を着ていて、左上に描かれる顔は灰色で曖昧に表される。ハイライトは彼女の持つ白い紙製の袋(?)である。
《Selfie (1)》(720mm×605mm)は、白いキャミソールにデニムのパンツの女性が坐って上を向く姿を表した作品。上端に彼女の顔が位置するが眼は画面上段で切れて表情は定かでない。顔の周囲には赤いセミロングの髪が覗く。顔や肩、スマートフォンを掲げている左腕がレンズから近いためにやや大きく、レンズから遠い脚はやや小さく表される。画面下部には別の画面があり、立ってスマートフォンで自撮りする白Tシャツに短パン姿の女性が映っている。おそらくメインの画面の女性と同一人物だろう。なおかつその画面には、この絵画に近いイメージ(左右が反転し、下部の別画面は存在しない)が映り込み、入れ籠の関係となっている。画面の両脇を白く塗り込め、十字と眼のような記号を組み合わせたものが縁を取り巻いている。
《Baptism》(803mm×1000mm)は、中央に女性の顔を描き、その左右を取り囲むように、花束を持つ縞のジャケットの人物と胸元に十字を提げた人物(?)とを配した作品。女性の顔は黒でドローイング調で薄暗く描かれ、青い格子の中に沈んでいる。対照的に縞のジャケットの人物のシャツや十字を提げた人物の衣装は明るい白で塗り潰されている。白く輝くシルエットと格子の奥に囚われ顔とが対照的である。画面の周囲を赤い十字が取り巻いている。画題通り、洗礼の儀式を表したものだろうか。
《Line 3》(725mm×605mm)は、青と白の格子の上にデッサン調で描かれた女性の胸像。黒いジャケットを羽織る女性は、やや左側に顔を向けて俯き、人差指と中指とを突き出した右手で右頬を覆っている。女性の指と彼女の周囲は赤い絵具で塗り込められている。画面の周囲は交互に並ぶ白い十字と眼のような記号とで飾られている。
《Gyeongui-joongang Line》(650mm×528mm)は、ガラス張りの空間に佇む、肩からバッグを提げた、赤いタンクトップ姿の女性の胸像。縦に1本、横に2本走る白い線の上に女性の姿がデッサン調で表されている。彼女の背後には部屋か通路、また、照明のようなものが描かれる。画題からすると、韓国の鉄道の車内なのかもしれないが、判然としない。
《Line 4》(700mm×608mm)は、リュックを背負った短髪の男性とその隣に並ぶ女性とを描いた作品。男性の胸や女性の顔には青い格子がぼんやりと浮かぶ。女性の顔は風景に溶け込むようで、彼女の身に付けた服には絵画(?)の断片的なイメージが複数描き込まれている。2人の背後にはガラスの格子がある。画面上端の枠は、映り込んだ指にも見える。

《A letter》(807mm×970mm)は騎馬の女性の姿を赤いシルエットで表した作品。中央付近の騎馬像の周囲には、画面右下の馬の頭部、画面上端の馬の蹄、画面左上の馬の後ろ肢などがスケールを違えながらもやはり赤いシルエットで描かれている。それらのイメージの周囲は針葉樹のような黒い記号的なイメージが埋め、あるいは白で塗り潰されている。画面の周囲は青い十字の列が縁取る。

《Flower》(605mm×495mm)は、窓越しの青空(?)を背景に、赤く細かい斑が入った黄色い蘭を中心に描いた作品。別の白い花のイメージも重ねられる。「窓」の周囲はペールオレンジの壁が囲う。

画面に頻繁に登場する格子に登場人物は囚われ、暗い表情を浮かべている。格子は檻、牢獄である。同時に格子は座標や画素を連想させる。全て[omnis]がデジタルデータに置き換えられていく世界を表現するようだ。もっとも縁飾りなどに見られる記号のパターンは、いくらでも複製可能なデジタルデータに対し、不均一・不統一によって、却って手書きによる一回性を印象づける。ならば、翼を拡げたような形態の平たい壺に絵を描いた「Alibi」シリーズは、そのような世界から他の[alius]場所[ibī]へと抜け出したいという欲求の表現とも解される。絵画に表現される自撮りの視座は、ファインダーを除く必要から解放されている。主観に限定されない自由な眼差しにより、自己をこの世界の束縛から解き放つ可能性を模索しているとも言えよう。