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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『江戸の園芸熱 浮世絵に見る庶民の草花愛』

展覧会『江戸の園芸熱 浮世絵に見る庶民の草花愛』を鑑賞しての備忘録
たばこと塩の博物館にて、2019年1月31日~3月10日(前期は2月17日まで。後期は2月19日から)。

江戸時代の園芸の有り様を浮世絵と板本とに辿る企画。

上野などの桜の名所の浮世絵を展示する「序章 花見から鉢植へ」、鉢植えを描いた浮世絵・板本を紹介する「第1章 身の回りの園芸」、縁日の細工物や江戸のテーマパークを描いた浮世絵・板本を取り上げる「第2章 見に行く花々」、鉢植えや植木売りが登場する役者絵を展観する「第3章 役者と園芸」の4つのセクションで構成。

「第1章 身の回りの園芸」では、鉢植を描いた浮世絵・板本が紹介される。室内や縁側、物干し、沓脱ぎ石の脇など様々な場所に鉢植えが置かれているのが分かる。また、縁日の露天商や振り売りから鉢植を求める場面も描かれている。梅、松、竹、福寿草から、椿、万年青、蘇鉄やサボテンにいたるまで様々な鉢植がある。草木の種類だけではなく、鉢も多様で、染付のいかにも高値の鉢などが描き込まれている。立派な植物を手に入れたら、鉢にもこだわりが生じるのだろう。
歌川国芳《絵兄弟やさすがた 羅生門》は、女性が染付の鉢を手にしている絵だが、上部に羅生門の鬼を冊子の形で描き込んでいる。どちらにも朱塗りの柱が描かれることで2つの場面をつなぎ、女性が渡辺綱を、手にした鉢が鬼の腕の見立てとなっている。
喜多川歌麿《当世座敷八景 唐崎夜雨》では柄杓で松の鉢植えに水をやる様子が描かれるが、上部の小円の中に唐崎夜雨が描かれ、その見立てとなっていることが分かる(歌川芳虎《座しき八景の内 上漏の松の雨》も同主題)。
二代歌川広重《新板鉢植つくし》などは「おもちゃ絵」と呼ばれる子ども向けの浮世絵だが、江戸の多様な鉢植を知る恰好の資料となっている。
大岡雲峰《南天奇品写生五木》は糸鮮やかな鉢に注目。

「第2章 見に行く花々」では、縁日などで展示された園芸の細工物が紹介される。人物、動物、風景など様々なものを菊などで拵えて見世物としたらしい(菊細工)。立川焉馬他『巣鴨名産菊の栞』は、菊細工を絵で紹介したガイドであるが、掲載順に巡ると効率よく鑑賞できるという仕掛けになっているという。それだけ多くの細工物が作られていたということだろう。また、梅屋敷など花の名所も紹介されている。
歌川国芳《百種接分菊》は、一本の菊に接木して百種の菊花を咲かせたものを描いている。
歌川豊国《菊の細工物》は、文政元年の7代目市川團十郎と5代目瀬川菊之丞の『蹔』の細工物を描いたもの。この細工物はしかけがあって動いたらしい。
歌川広重《東都名所梅屋敷満花之図》は亀戸の梅屋敷を描いたもの。空刷りも施されている縦構図の浮世絵。柱絵であろうか。
渓斎英泉の《江戸名所尽 梅屋舗臥龍梅開花ノ図》は霞のように表現された梅の花が描かれる(あるいは、梅園に霞がかかっている情景なのかもしれない)。